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2022年「国連世界湿地の日」記念シンポジウムを開催

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  • 湿地の価値、状態、変化の傾向

 

 2022年2月。シンポジウムのテーマは「人と自然のために、湿地を守る行動を始めよう(Wetlands Actions for People and Nature)」で、基調講演の他、3名による事例紹介等の講演をいただきました。2日に、日本国際湿地保全連合(WIJ)、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)、地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)主催、環境省共催の「世界湿地の日記念シンポジウム」を開催いたしました。今年はZoomウェビナーによるオンラインでの開催となり、計165名が参加しました。

 開会は、UNU-IASの山口しのぶ所長にご挨拶いただき、自然環境の劣化が進む現在において、持続可能な社会を実現するためにも、湿地を含めた自然環境の保全活動等の行動が必要であると述べられました。また、2021-2030年「国連生態系回復の10年」の機会を活用し、今後の持続可能な社会の実現を進めていきたいとご挨拶をいただきました。

 また、今回のシンポジウム開催にあたって、ラムサール条約事務局が公開しているマルタ・ロハス・ウレーゴ事務局長のビデオメッセージ(https://youtu.be/IJHqqtbutKY)を上映しました。ビデオメッセージでは、湿地を保全することは、生物多様性保全に貢献するのみならず気候変動対策にもつながり、それらを統合して進めていくことで、人々の暮らしを持続可能な形に導くことにもなると述べられました。また、「世界湿地の日」は、それらを社会へ発信するための重要な機会であり、持続可能で豊かな未来の実現は、私たちの行動にかかっていると呼びかけました。

 講演が始まる前に、シンポジウムの参加者を対象にZOOMの投票機能を用いて簡単なアンケートを行いました。「湿地の保全や再生、ワイズユースの推進に人々が取り組むための一番重要な動機」について聞くと、「日常生活との繋がり」と回答した人が最も多く36.6%、次いで「自然や生物への愛情」の25.8%という結果となりました。

 環境省自然環境局野生生物課の則久雅司課長による「ラムサール条約に関する最近の動き」では、「世界湿地概況(2021年特別版)」の紹介があり、世界的な感染症の流行の下、湿地と人の健康との関係性に注目したワンヘルスの説明や、湿地の損失と劣化は気候変動にも影響していることなどの注目点を紹介いただきました。また、NbS(自然に根ざした社会課題の解決策)の概念が普及するとともに、自然環境保全を土地管理戦略と統合していくことが重要だという認識が広がったと述べられました。さらに、国内におけるラムサール条約登録湿地が53か所に増え、新規登録湿地となった「出水ツルの越冬地(鹿児島県出水市)」を紹介いただきました。

 基調講演では、キャスリン・ビムソン氏(IUCN Asia)に登壇いただき、「自然に根ざした社会課題の解決策(NbS)としての湿地のワイズユース」について、お話しいただきました。講演では、IUCNが提唱しているNbSの説明やアジア地域での事例(タイのWetlands Parkの建設、ベトナムの沿岸部における水田を活用した洪水対策)を紹介いただきました。また、NbSにおける8つのカテゴリーや自己評価に必要な指標等をWebサイトにまとめていることも併せて紹介いただきました。

 最初の演者を務めた新井雄喜氏(信州大学社会基盤研究所)には、「海外の事例から学ぶ、湿地を守る社会のつくり方」についてお話いただきました。講演では、ウガンダ東部の湿地での取り組みなどを紹介いただきました。ウガンダでは、人口増加に伴う農地転用・居住地の拡大・資源の過剰摂取等が要因となり、湿地の劣化が進んでおり、その解決のためにJICAが実施したプロジェクトを紹介いただきました。プロジェクトでは、湿地に関する自然科学的側面からの現地調査とともに、湿地周辺で暮らす住民による湿地の利用状況の調査を行い、自然科学と社会学的な知見を集積した上で、住民のニーズに合わせた生計を向上させる支援も併用することにより、住民の合意を得た湿地の管理計画を作成したとのことでした。また、湿地を守る社会の作り方として、湿地に関わる人たちへのアプローチには、「湿地や生き物を守る」ことから議論せず、人々が直面している課題に耳を傾け、その解決方法として湿地の機能(生態系サービス)を利用することや課題解決が結果として湿地の保全に繋がるような仕組みをつくることが重要であると述べられました。

 2番目の演者を務めた江島美央氏(鹿島市ラムサール条約推進室)には、「環境と産業の調和から有明海の再生に向けて」についてお話いただきました。鹿島市では、ラムサール条約登録湿地として注目された干潟の保全だけではなく、経済的側面から地域でお金が回るような仕組みづくりを目指し、地域循環共生圏に関わるプロジェクトから取組をスタートしたとのことでした。鹿島市では、ここ数年、大雨等による自然災害に見舞われ、本来、豊かであったはずの地域の自然環境を見つめなおす機会等もあり、干潟だけでなく河川上流域から沿岸部を含めた視点から、有明海の保全に繋がることを目的とした取組に幅を広げたとのことでした。また、取組を評価することにより、経済に対するプラスの影響を促進しているとのことでした。さらに、有明海の再生を目指す上で、共有されるビジョンが異なることを許容することにより、逆に多様な人たちが関わってくれる状況が生まれたと述べられました。

 最後の演者を務めた柳谷牧子氏(UNU-IAS)には、「持続可能な社会実現に向けた、これからの水辺と海辺そして暮らし-「国連生態系回復の10年」の湿地の保全と再生-」について、お話いただきました。現場での取り組みをスケールアップさせ、社会全体へ主流化するための機会として、2021年からスタートした「国連生態系回復の10年」を活用することを提案されていました。生物多様性を取り巻く国際的な動きとして、持続可能な社会の実現には社会変容(トランスフォーマティブチェンジ)が必要なこと、生物多様性枠組みにおける2030年までの目標案に生態系の回復(再生)が挙げられていることなどから、「生態系の回復/再生」が重要であり、それを通じて社会変容を成し遂げる必要があることを述べられていました。また、現状の取組では、持続可能な社会の実現は困難であり、人々がより積極的に問題解決に関わっていく必要があると述べられました。さらに、持続可能な社会の実現に向け、UNU-IASにおける里山イニシアチブ等の取組や行動計画等も併せて紹介いただきました。

 最後に、当団体の星野一昭 会長が挨拶し、湿地の保全が人々の暮らしや経済に繋がる形で全国に展開していくことや、湿地やそこで暮らす生き物たちに愛情をもち、科学的根拠に基づいた保全活動がなされていくことが重要であると述べるとともに、そのような社会を実現されることを望んでいるとシンポジウムを締め括りました。