湿地の保全と再生のための自主的炭素市場
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湿地の価値、状態、変化の傾向
健全な湿地は、主要な温室効果ガスの一つである二酸化炭素のもととなる有機炭素を固定するもっとも効果的な生態系です。枯れた植物が十分に分解されずに堆積した土壌である泥炭地は、地球の陸地面積のわずか3%しかありませんが、陸地に存在する炭素の30%を貯えています。マングローブ林のような沿岸湿地は、熱帯雨林の5倍の炭素を固定しています。
しかし、湿地はもっとも危機的な状況にある生態系でもあります。過去100年間、世界の湿地の3分の2以上が消失または劣化しました。現代において、気候変動、生物多様性の損失、土地の劣化という、地球が抱える3つの大きな危機の中心に位置しています。
劣化した湿地は、土壌からメタンガスや亜酸化窒素とともに大量の二酸化炭素を排出し、地球温暖化を加速させます。世界の温室効果ガスの年間排出量の5%は、乾燥して劣化した泥炭地からの排出によるものです。
そのため、湿地の保全と再生は優先度の高い課題であり、それを実現するための資金調達が急務となっています。
なぜ自主的炭素市場なのか?
国や国際機関が設定する排出量削減義務や排出量報告制度などの規制・制度に基づいて温室効果ガスの排出権が取引されるコンプライアンス市場(Compliance Carbon Markets: CCM)に比べて、民間が主導する自主的炭素市場(Voluntary Carbon Markets: VCM)は活発かつ流動性が高く、国内外からの投資を湿地の保全と再生に振り向ける機会を提供します。
泥炭地や沿岸湿地の保全と再生のような「自然を活用した気候変動対策(Nature Climate Solutions: NCS)」を実施することで、CO2排出量を年間120億トン削減する効果があると考えられています。これは、15~20億トンの需要が予想されている自主的炭素市場に十分な炭素クレジットを供給します。
炭素市場を発展させ、ネットゼロを達成するためには、炭素クレジットの透明性や完全性、品質向上がきわめて重要であり、取引の枠組みの信頼性が確立される必要があります。
Wetlands Internationalは、貴重な湿地の保全と再生に目を向け、透明性のある公平・公正な炭素市場の確保に取り組んでおり、自主的炭素市場に関するポジション・ペーパー(立場表明書)を2022年5月に公開しました。