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湿地と水 | 2021年世界湿地の日記念シンポジウムを開催

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  • 湿地の価値、状態、変化の傾向

2021年2月2日に、日本国際湿地保全連合(WIJ)、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)、地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)主催、環境省共催の「世界湿地の日記念シンポジウム」を開催いたしました。今年はZoom ウェビナーによるオンラインでの開催となり、約180名が参加しました。シンポジウムのテーマは「湿地と水(Wetlands and water)」で、3名の演者の方に話題を提供していただきました。

 

開会は、UNU-IASの山口しのぶ 所長にご挨拶していただき、UNU-IASの研究プロジェクトの連携強化や分野横断的なパートナーシップの促進を通じて、複合的なアプローチでSDGsの達成に向けた取り組みに貢献していく必要があると述べられました。

また、今回のイベント開催に際して、ラムサール条約事務局のMartha Rojas Urrego 条約事務局長からビデオメッセージが届き、世界湿地の日のイベント開催に対する謝辞や、日本のラムサール条約登録湿地における政府・自治体・関係者の努力について賛辞をいただきました。

環境省自然環境局野生生物課の中尾文子 課長によるイントロダクションでは、水資源と湿地の関係について解説していただき、「湿地がなければ私たちの命は維持できない」というメッセージを届けていこうという呼びかけがありました。

最初の演者を務めたSaroj Chapagain リサーチフェロー(UNU-IAS)には、経済成長と水に関する環境問題の解決を同時に達成するための1つの方法として、経済と環境影響評価の両方を考慮した分析評価モデルについてご報告いただきました。経済を駆動する様々な業種の直接的および間接的な水使用量や汚染量を考慮し、統合的に水環境への影響を評価しながら管理していくことの重要性を強調されていました。

2人目の演者を務めた島谷幸宏 教授(九州大学工学研究院)には、湿地を保全しながら生態系サービスを活用し、かつ水害のリスクもマネジメントする方法として、地形を活用する方法をご紹介いただきました。川は氾濫すると、周辺の人家に被害を与えますが、同時に、水田に栄養分を運び、魚類の繁殖場所などになる水たまりを形成します。自然堤防の上に人家を建て、その後背地には水田などを造成するという昔ながらの工夫によって、水害のリスクを回避しつつ、生態系サービスの恩恵を受けることができます。その事例として、総合地球環境研究所によるEco-DRRプロジェクトの霞堤をご紹介いただきました。霞堤は、河川の氾濫時には水田に水が流れこむ仕組みになっており、下流域での洪水を防ぎつつ、水田に栄養を供給することを可能としました。

最後の演者を務めた上田洋平 氏(滋賀県立大学地域共生センター)には、琵琶湖周辺に住んでいた昔の人々が、水辺に寄り添い、水辺を上手に活用していた暮らしについてご紹介いただきました。水辺の活用例として、台風に伴う出水によって、湖畔に打ち上げられる多くの流木についてご紹介いただきました。流木は、現在ではゴミとして扱われていますが、昔の人々の生活には欠かせない資源だったそうです。人々の生活様式の変化に伴い、資源であったものがゴミとなるという表現は印象的でした。環境問題には人の暮らしと自然環境との関係が断絶されたことも要素の一つとして含まれるというご指摘がありました。講演の中では、琵琶湖周辺に住む当時の人々の生活を鮮やかに描いた「ふるさと絵屏風」を用いた、上田氏による絵解きもありました。

これらの3つの講演では、人々・社会・自然の繋がりの重要性が強調されていました。この点については後半の意見交換の場でも、各演者からご意見をいただきました。また、NbS(Nature-based solutions)をスケールアップしていく方法や、防災と環境保全を一体的に考えることの重要性など、興味深い意見をいただきました。参加者からのご質問も尽きず、終了時間ぎりぎりまで活発な議論が行われました。

最後に、当団体の星野一昭 会長が登壇し、将来的な世界の水需要の増大とそれを支える湿地の重要性について述べ、身近な水辺との関わりを大切にすることが、湿地の保全や私たちの豊かな暮らしにつながるのではないかと語り、シンポジウムを締め括りました。